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いったん数字を置いておく
先日のブログでも書いたが、指導中、とくに小学生に算数を教えているときに、最近よく伝えている言葉がある。
いったん数字のことは忘れなさい。
算数が苦手な子、もう少し詳しく言うと、「考えることが苦手な子、文章題が苦手な子」の指導中によく伝える言葉だ。
問題を解くためには、まず問題文の意味を理解しなければならない。意外や意外、この当たり前のことができていないことが多い。「Aさんは分速80mで・・・」この分速80mの意味を考えないまま解こうとする(なんとなく式を立てようとする)子がたくさんいる。もちろんほとんどの子は「分速80mってどういう意味?」と聞くと答えられる。しかし、問題文を読んだ段階で、その意味を考えようとしていない。質問されてはじめて、目の前の情報の意味を考える。「分速○○m」ということの意味を考えていないということは、おそらく彼らの目には「80」という数字だけが映っているように思われる。とにかく数字のみに意識が行ってしまっている。そして数字を使って式を立てることにばかり意識が行ってしまっている。
こういう生徒には、上記のようなことを繰り返し伝えることになる。「いったん数字のことは忘れなさい。問題文に何が書いてある?それをノートに一つずつ書きなさい。その上で、そこからどんなことが分かるか考えなさい。分かったら、分かったことを日本語で書きなさい。状況をイメージしなさい。イメージがわかなければ、絵や図を書きなさい。適当に数字をいじくっても、算数はできるようになりません。」
式を立てることに終始してきた子にとっては、私の指導は(とくに最初は)しんどく感じると思う。まず全然答えを教えてくれないし、適当に式を書いたら「私に言われたことができていません。はい、やり直し。」と言われる。答えが合っていても「はい、この数字は何を表していますか。こっちの数字は何ですか。日本語で説明してみて。」と突っ込まれる。曖昧な答えを言おうものなら、「主語がありません。」「もう少し正確に。」「その言い方では相手に伝わりません。」とバッサリ言い直しをさせられる。はっきり言って、生徒からすると面倒くさいだろう(苦笑)しかし、こういうやりとり無しに、手っ取り早くとりあえず立式しようとする悪癖を抑えることは困難だと感じている。
じっくりと踏み固めるように問題文を読み、分かることを一つずつ積み重ねていく。論理が飛んだり、勘で計算したりすることを減らす。そういう学習姿勢が身につくと、グッと伸びる。何より、本人としても「ちゃんと理解できている」という実感がわくだろうし、やっていて楽しくなると思う。たった一問に20分も30分も費やすこともあるが、一見無駄に見えるその時間は、絶対に必要な時間である。
もちろん十分な訓練を積んでいる子は、上記のようにいちいち言語化しなくても解けるだろう。なぜなら「分速80mがどういうことを意味するか」「その情報からどんなことが導けるか」ということが、確かな理解と反復練習によって無意識レベルにまで染みこんでいるからである。ただ、問題の難易度が上がり、無意識のうちに解けない場合は、やはり上記のようにひとつずつ言語化することが大切だ。こういう指導は人対人で、じっくりと時間をかける必要がある。大切にしたい部分の一つである。